東京高等裁判所 昭和59年(ネ)2626号 判決 1985年9月30日
控訴人
株式会社関東銀行
右代表者
渡邊幸男
右訴訟代理人
糸賀悌治
被控訴人
大和ハウス工業株式会社
右代表者
上村圭一
右訴訟代理人
濱秀和
金丸精孝
右訴訟復代理人
大塚尚宏
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一 控訴代理人は「原判決を取り消す。水戸地方裁判所土浦支部が同庁昭和五六年(ケ)第一九〇号不動産競売事件について作成した別紙配当表(原判決添附のもの。以下同じ)のうち、順位2、3の配当実施額を控訴人に対する配当実施額を一一一五万五五四〇円に、被控訴人に対する配当実施額を三六四万六七八六円に変更する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
二 当事者双方の事実上、法律上の主張は、原判決二枚目表一〇行目「二五日」を「一五日」に、三枚目裏二行目及び三行目の「競売」を「売却」に、五枚目裏一行目「寛」を「完」に改め、同四行目及び七行目の「新」の次に「た」を、六枚目裏二行目「ならない。」の次に、「ところが、控訴人は同条項に定める被控訴人の承諾書又はこれに対抗することを得べき裁判の謄本を添付しないで第二一一一六号抵当権変更の付記登記申請をしたのである。」を、同八行目「争う。」の次に、「現行法令のもとにおいては、抵当権の効力を目的不動産全部に及ぼさしめる登記をもつて新たな抵当権設定登記と解することは許されず、また、登記が付記登記である以上は、不動産登記法七条一項の規定により、その順位は主登記の順位によるべきものである。」をそれぞれ加えるほか原判決の事実摘示のとおりであ<る。><証拠関係省略>
理由
一請求原因1ないし5の事実及び控訴人が本件競売事件の配当期日において別紙配当表中控訴人及び被控訴人の配当実施額について請求原因6記載のとおり異議の申立てをしたことは当事者間に争いがない。
二抗弁について
1 抗弁1、2の事実及び抗弁3の事実のうち新たな抵当権の設定であるとの点を除くその余の事実は当事者間に争いがない。
2 <証拠>によれば、被控訴人は高柳治夫から同人が新たに山口完から取得した本件宅地の二分の一の持分について前記求償債権担保のため新たに抵当権の設定を受け、これに基づいて第一九六〇六号抵当権変更の付記登記をなしたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。
3 ところで、不動産の共有持分に抵当権を設定した者が他の共有持分全部を取得して不動産の単有の所有者となつた場合でも、右抵当権の効力は当初の共有持分の上にのみ及ぶのであり、当然に新たに取得した共有持分の上にまで及ぶことはない。したがつて、新たに取得した共有持分の上に抵当権の効力を及ぼすためには、右持分について新たに抵当権を設定しなければならないのである。しかしながら、今日の登記実務においては単有の所有権の一部につき抵当権を設定することは認められていない(昭和三六年一月一七日民事甲第一〇六号法務省民事局長回答、昭和三五年三月三一日民事甲第七一二号法務省民事局長通達)ので、登記実務上、新たに取得した共有持分について抵当権を設定し抵当権の効力をその不動産全部に及ぼす登記は抵当権の変更の登記としてなすべきものとされ(昭和二八年四月六日民事甲第五五六号法務省民事局長回答)、その変更登記の登記原因は、右の取得持分についての抵当権設定契約と解すべきものとされている(昭和三一年四月九日民事甲第七五八号法務省民事局長通達)。そして、右変更の登記は、登記上利害関係を有する第三者の登記があり、その者の承諾書又はこれに対抗することができる裁判の謄本を添付することができないときは主登記として、右以外の場合には先の共有持分に対する抵当権設定登記の付記登記としてなすべきものとされている(昭和二八年四月六日民事甲第五五六号法務省民事局長回答、不動産登記法五六条一項)。
これを本件についてみると、前掲甲第一号証によれば第一九六〇六号抵当権変更の付記登記がなされた時には右登記につき利害関係を有する第三者は存在しなかつたから、高柳治夫が山口完から取得した持分について抵当権を設定し本件宅地全部に抵当権の効力を及ぼさしめるために右付記登記がなされたものと認められ、不動産登記法七条一項により右付記登記の順位は主登記である第一三四三一号の抵当権設定登記の順位によるが、控訴人の第二一一一六号抵当権変更の付記登記がなされた時には既にこれと利害関係を有する被控訴人の第一九六〇六号抵当権変更の付記登記が存し、弁論の全趣旨によれば、控訴人は第二〇七一五号抵当権の効力を本件宅地の所有権全部に及ぼすことについて不動産登記法五六条一項所定の前示の承諾書又は裁判の謄本を添付しないで第二一一一六号抵当権変更の付記登記を申請したことは明らかであるところ、このような場合には付記登記として登記することは許されず(不動産登記法五六条一項)、主登記として登記されるべきものであつた。したがつて、第二一一一六号抵当権変更の付記登記は本来主登記としてなされるべきものが誤つて付記登記としてなされたものであるから、その順位について不動産登記法七条一項により第二〇七一五号抵当権の順位によることは許されず、同法六条一項により第二一一一六号の付記登記自体を基準として権利の順位を決するのが相当である。
以上と見解を異にする控訴人の主張は採用することができない。
そうすると第二一一一六号抵当権変更の付記登記は第一三四三一号抵当権設定登記より後になされたことは明らかであるから、高柳治夫が山口完から取得した本件宅地の二分の一の持分について被控訴人の第一九六〇六号抵当権変更の付記登記にかかる抵当権は控訴人の第二一一一六号抵当権変更の付記登記にかかる抵当権に優先する。
三再抗弁について
1 <証拠>によると、第二〇七一五号及び第一三四三一号の抵当権設定当時本件宅地を含む周辺の土地について土地区画整理事業が施行中であり、本件宅地は換地前の土浦市乙戸字下ノ内二〇九番七の土地の一部をなしていたこと、高柳治夫及び山口完はそれぞれ和田正夫から右土地の二分の一の共有持分を買い受けたが、昭和五一年九月一日右従前の土地は本件宅地及び同所二一九番一の土地に換地され、同年一一月一八日共有物分割により高柳治夫は山口完から本件宅地の二分の一の共有持分を取得(同月二二日登記)したこと、第二〇七一五号抵当権設定当時、右従前の土地は、ほぼ平等の地積をもつた二つの地域に区分され、その一つの地域が前記の経過によつて高柳治夫が取得することとなつた本件宅地の地域であり、他の地域が山口完が取得することとなつた二一九番一の土地の地域であつたところ、高柳治夫は控訴人に対し本件宅地全部について順位一番の抵当権を設定する旨約したこと、控訴人と被控訴人との間には住宅提携ローンの取引契約が締結され、これに基づいて控訴人が融資した場合には控訴人が融資の目的となつた不動産に第一順位の抵当権を設定するか又は被控訴人が借主の債務を保証するものとされていたが、本件宅地の売買は訴外桂不動産の仲介で行われたため高柳治夫は右住宅提携ローンを利用せずに本件宅地の買入資金等を控訴人から借り入れ、被控訴人は控訴人の高柳治夫に対する融資並びに抵当権の設定には関与しなかつたこと、被控訴人は高柳治夫から本件建物の建築工事の注文を受け、被控訴人が訴外株式会社常陽銀行と契約していた住宅提携ローンの取引約定に基いて高柳治夫が同銀行から建築資金として六〇〇万円を借り受け、被控訴人がその債務を保証し、その求償権を担保するため第一三四三一号抵当権、第一九六〇六号抵当権の設定を受けたこと、被控訴人は高柳治夫が控訴人から本件宅地の買入資金等を借り受け、その当時同人に対し本件宅地全部について第一順位の抵当権を設定する旨約していたことを知つていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
2 右認定の事実によれば、被控訴人は高柳治夫が控訴人から本件宅地の買入資金等を借り受け、同人に対し本件宅地の全部について第一順位の抵当権を設定する旨約していることを知りながら、高柳治夫が後に取得した本件宅地の二分の一の共有持分について控訴人に優先して抵当権を設定しているが、被控訴人は控訴人高柳治夫に対する融資並びに抵当権の設定には関与したことはないから、本件宅地全部について控訴人に第一順位の抵当権を設定するとの控訴人と高柳治夫との約定の履行に何ら協力すべき義務はなく、また、このような場合に、控訴人が主張するような商業上の道義が求められるわけではなく、しかも、被控訴人は高柳治夫に対し求償債権を有しているから、第一九六〇六号の抵当権の設定を受けるについて正当な利益を有していたものというべく、その手段、方法についても特段非難すべき点は見当らず、被控訴人が第一九六〇六号抵当権変更の付記登記にかかる抵当権が右付記登記に劣後する第二一一一六号抵当権変更の付記登記にかかる抵当権に優先すると主張することが著しく信義に反するということはできない。したがつて控訴人の再抗弁は失当であり採用することはできない。
四そうすると、控訴人は本件宅地の所有権の二分の一につき一番抵当権、本件宅地の所有権の二分の一及び本件建物について二番抵当権、被控訴人は本件宅地の所有権の二分の一及び本件建物について一番抵当権、本件宅地の所有権の二分の一について二番抵当権を有していたことになる。
本件宅地建物は一括して一五一四万円で売却されたから、右代金を本件宅地建物の各最低売却価額で按分して本件宅地及び本件建物の個別の売却代金額を求め、これらから執行費用三三万七七六三円をそれぞれ最低売却価額に応じて按分した額を控除すると、本件宅地につき一一一五万四四八七円、本件建物につき三六四万七七五〇円が債権者に配当すべき金額となる。
そこで、別紙配当表順位2、3記載の配当実施額の合算額を前記抵当権の順位にしたがい損害金は最後の二年分を配当することとして控訴人と被控訴人に対する配当実施額を算定すると別紙配当表順位2、3記載のとおりとなる。
五以上認定判断したところによれば、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であつて本件控訴は失当であるから、民訴法三八四条によりこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官柳川俊一 裁判官三宅純一 裁判官林 醇)